レセプト代行とは診療報酬請求の作成・点検・提出を外部の事業者に委託することです。請求事務のすべてを出せるわけではありません。
AX総合研究所は作成や点検を委託する範囲と、医療機関が承認・管理する範囲を先に分けることを提案します。医療法第15条の3の委託先基準に診療報酬請求事務は列挙されていませんが、個人情報保護や請求方法の要件までなくなるわけではありません(2026年10月時点)[1][2][3][4]。
医療機関の請求作業は資格確認から入金確認までの8工程です
医療機関の請求作業は資格確認から入金確認までの8工程に分けて考えられます。医療情報基盤・診療報酬審査支払機構(DX審査支払機構、旧・社会保険診療報酬支払基金)は、審査支払機関側の流れを公開しています。受付、事務点検・審査事務、審査、計数整理、保険者別編集等、請求、支払、再審査等整理事務の8段です[6]。
公式の8段は審査支払機関側の工程です。医療機関側の工程と対応させて見ると、どこまでが自院の仕事かが分かります。
医療機関側の工程は、次の作業区分で委託範囲を検討できます。患者の受付と資格確認、カルテへの記録、点数の算定、レセプトの作成、点検、審査支払機関への提出、返戻・査定への対応、入金の確認です。
代行会社に依頼できる工程は、算定、作成、点検、提出支援、返戻対応、入金確認など、契約ごとに異なります。 会社によって範囲が違うため、料金の比較は範囲を揃えてからになります。
返戻・査定への対応を「一部出せる」としたのには理由があります。返戻されたレセプトの修正と再請求は代行に出せます。一方で、査定に納得できない場合の再審査の申出は、医療機関の名前で行う手続きです。内容の検討まで手伝ってもらうことはできても、申し出るのは医療機関です。
金額の水準はレセプト代行の料金相場にまとめました。
医療法が縛っているのは8業務。レセプトは入っていません
医療法第15条の3の委託先基準は、検体検査と施行令が定める7業務が対象で、診療報酬請求事務は含まれません(2026年10月時点)[1][2]。
医療法第15条の3第1項は検体検査の委託先を定め、第2項は「医師若しくは歯科医師の診療若しくは助産師の業務又は患者(略)の入院若しくは入所に著しい影響を与えるものとして政令で定めるもの」を委託する場合に、厚生労働省令で定める基準に適合する者への委託を求めています[1]。
その「政令で定めるもの」が医療法施行令第4条の8です。列挙されているのは7業務です[2]。
号 | 業務 |
|---|---|
一 | 医療機器等の滅菌又は消毒 |
二 | 病院における患者等の食事の提供 |
三 | 患者等の搬送 |
四 | 厚生労働省令で定める医療機器の保守点検 |
五 | 医療の用に供するガスの供給設備の保守点検 |
六 | 患者等の寝具又は衣類の洗濯 |
七 | 診療等の用に供する施設又は入院の用に供する施設の清掃 |
この7業務に共通するのは、患者の身体や入院生活に直接触れる仕事だという点です。滅菌が不十分なら感染が起きます。食事の提供が滞れば入院患者が困ります。だから委託先の能力を法令で縛っています。
検体検査を加えて8業務です。診療報酬請求事務はこの列挙に入っていません。 この条項の委託先基準の対象外です。「医療法で決まっているから外注できない」という説明は、条文と合っていません。
なお平成5年の通知や古い解説では、この政令の条番号が「第4条の7」と書かれています[2]。現行では第4条の8です。古い資料を参照するときは番号のずれに気をつけてください。
個人情報保護法では「委託」にあたります
レセプトデータの提供が利用目的の達成に必要な範囲の委託に伴う場合、個人情報保護法上の第三者提供には該当しません(2026年10月時点)[3]。
個人情報保護法第27条第5項第1号は、「個人情報取扱事業者が利用目的の達成に必要な範囲内において個人データの取扱いの全部又は一部を委託することに伴って当該個人データが提供される場合」について、提供を受ける者は第三者に該当しないと定めています[3]。この条件を満たす委託に伴うデータ提供には、第三者提供の同意を個別に得る必要はありません。委託先が自社の別目的に利用する場合まで、同意不要になるわけではありません[3]。
そのかわり第25条が監督義務を課します。「個人データの取扱いの全部又は一部を委託する場合は、その取扱いを委託された個人データの安全管理が図られるよう、委託を受けた者に対する必要かつ適切な監督を行わなければならない」[3]。
個人情報保護委員会のガイドライン(通則編)は、監督の中身を3つに分けています[7]。適切な委託先の選定、委託契約の締結、取扱状況の把握です。選定については、委託先の安全管理措置が委託元に求められるものと同等であることを、あらかじめ確認しなければならないとしています[7]。取扱状況の把握については定期的に監査を行うなどして実施の程度を調査し、評価することが望ましいとしています[7]。
項目 | 確認すること |
|---|---|
委託先の選定 | 安全管理措置が自院と同等か、事前に確認する |
契約の締結 | 双方が同意した安全管理措置を書面にする |
取扱状況の把握 | 定期的に報告を受け、必要なら監査する |
「契約書を交わした」で終わらせないでください。 定期的に状況を確認するところまでが監督義務です。
確認の方法は大がかりでなくて構いません。代行会社から安全管理措置の実施状況について書面で報告を受け、その内容を院内で記録に残す方法があります。ただし、確認の頻度や方法は扱うデータと業務に応じて決める必要があり、年1回の報告だけで監督義務を満たすとは限りません[7]。担当者が変わったときに、この記録が引き継ぎの材料になります。
診療録の外部保存には保存場所と安全管理の条件があります
診療録を外部保存する場合は、保存場所、真正性・見読性・保存性、安全管理と責任分担の条件を確認します(2026年10月時点)[8][13]。
外部保存通知の平成25年改正後の内容には、医療機関等が民間事業者等との契約に基づいて確保した安全な場所も含まれます[8]。病院や行政機関のデータセンターだけに限られるわけではありません。真正性は記録の改変等を確認できること、見読性は必要なときに読めること、保存性は必要な期間に復元できる状態を保つことです。
厚生労働省は2026年6月に「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」を第7.0版へ改定しています[13]。保存場所の条件に加え、安全管理措置と事故時の責任分担を、利用するサービスに即して確認します。
区別が必要です。多くの代行ではレセプトのデータを送って点検してもらうところまでで済みます。診療録そのものを院外のサーバーに保存する行為とは別です。診療録の外部保存には保存の条件が加わりますが、点検用データの授受でも個人情報の安全管理は必要です[3][7][8]。 契約前に、代行会社がどのデータをどこに置くのかを確認してください。
代行に出しても院内に残る4つの仕事
院内に残すべきものは資格確認、診療録の記載、保存、施設基準の届出に関する判断と管理責任です。実作業の委託可否と、法令上の責任は区別します[5][9]。
1つ目は資格確認です。保険医療機関及び保険医療養担当規則第3条は、療養の給付を求められた場合に、電子資格確認などの方法で資格を確認しなければならないと定めています[5]。2つ目は診療録の記載です。同規則第22条は「保険医は、患者の診療を行つた場合には、遅滞なく(略)診療録に、当該診療に関し必要な事項を記載しなければならない」としています[5]。
3つ目は帳簿の保存です。同規則第9条は療養の給付の担当に関する帳簿・書類を完結の日から3年間、診療録は5年間保存することを求めています[5]。4つ目は施設基準の届出です。届出先は地方厚生局で、加算を算定するかどうかの判断と届出は医療機関が行います[9]。
仕事 | 根拠 |
|---|---|
資格確認 | 療担規則第3条 |
診療録の記載 | 療担規則第22条(保険医の義務) |
帳簿3年・診療録5年の保存 | 療担規則第9条 |
施設基準の届出 | 地方厚生局へ届出 |
医療機関に残る責任を先に書き出すと、委託する実作業と院内の確認事項を分けられます。 残る仕事を決めずに見積もりを取ると、提案された範囲をそのまま受け入れることになります。
保存期間にも注意してください。帳簿は3年、診療録は5年です[5]。代行に出した期間の書類がどちらの手元に残るのかを、契約書に書いておく必要があります。契約を終了したときに、データの返却または廃棄をどうするかまで決めておいてください。終わり方を決めずに始めると、解約のときに書類が戻らない事態が起きます。
返戻と査定は別物です
返戻はレセプトの差戻しで、査定は請求点数の減額です。修正・再請求と、査定への再審査申出を区別して契約します[10][11]。
返戻は、審査支払機関が疑義のあるレセプトを医療機関に差し戻すことです。DX審査支払機構はレセプトの審査と再審査等の流れを公表しています[10]。返戻されたレセプトはその月の支払対象になりません。修正して再請求します。
査定は、点数が減額されて支払われることです。減額に納得できない場合は再審査を申し出ます。申出の期間について、DX審査支払機構は事務上の明らかな誤り等を除き、原則6か月という取扱いを示しています(2026年10月時点)[11]。国保連も同様の案内を出しており、北海道国保連は通知の送達後6か月以内に行うよう求めています[12]。
ここに注意点があります。北海道国保連は「病名の欠落、記載誤り等による減額査定分は、再審査請求及び取下げの対象となりません」と明記しています[12]。北海道国保連の案内では、該当する記載漏れの減額はこの手続きの対象外です。他の国保連にも一律に当てはめず、提出先に確認します。 点検の精度がそのまま収入に反映される部分です。
だから点検を外に出す価値があります。自院の職員が自分で作ったレセプトを自分で点検すると、同じ思い込みで同じ箇所を見落とします。別の担当者による点検で、見落としを発見できる可能性があります。代行に出す理由を「人手が足りないから」だけで説明すると、院内の合意が取りにくくなります。減額を減らすための第三者の点検という説明のほうが、数字で効果を確認できます。
締切も確認しておきます。請求は「各月分について翌月十日までに行わなければならない」と定められています[4]。代行会社の作業日程がこの期限に間に合うかを、契約前に日付で確認してください。何日までにデータを渡せば、何日に点検結果が戻るのか。その日程で院内の確認時間が取れるのか。この2点を月次のカレンダーに書き込んでから契約してください。口頭の確認では足りません。
まとめ
AX総合研究所はレセプト代行の検討を次の3手順で進めることを提案します。
- 資格確認・診療録・保存・届出に関する院内の責任者を決めます。
- 請求の8工程から委託する作業を選び、承認手順を決めます。
- 同じ業務範囲と件数で各社に見積もりを依頼します。
この順番で進めると、質問の内容が具体的になります。「レセプト代行をお願いできますか」ではなく、「算定と作成と点検の3工程を、月300件でお願いできますか。返戻の再請求まで含めるといくらですか」と聞けます。具体的に聞くほど、返ってくる見積もりの精度が上がります。
医療法第15条の3の委託先基準に診療報酬請求事務は含まれません。残るのは個人情報保護法の監督義務と、療担規則が定める院内の義務です。自院の請求事務をどこまで出せるか判断したい場合は、医療レセプト代行に当社の対応範囲を出しています。個別の事情は無料相談でお聞きします。事務全体の見直しから考えたい場合は1分でわかるAI活用度診断もお使いください。
※条文・通知の内容は2026年10月時点のものです。改正があるため、実務での判断は最新の原典でご確認ください。
参考文献・出典
- 医療法 — e-Gov法令検索(デジタル庁)(参照 2026-10-24)
- 医療法施行令 — 厚生労働省法令等データベース(参照 2026-10-24)
- 個人情報の保護に関する法律 — e-Gov法令検索(デジタル庁)(参照 2026-10-24)
- 療養の給付及び公費負担医療に関する費用の請求に関する命令 — e-Gov法令検索(参照 2026-10-24)
- 保険医療機関及び保険医療養担当規則 — 厚生労働省法令等データベース(参照 2026-10-24)
- 診療報酬の審査・支払業務の流れ — 医療情報基盤・診療報酬審査支払機構(参照 2026-10-24)
- 個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編) — 個人情報保護委員会(参照 2026-10-24)
- 「診療録等の保存を行う場所について」の一部改正について — 厚生労働省(参照 2026-10-24)
- 施設基準の届出等 — 関東信越厚生局(参照 2026-10-24)
- 診療報酬の審査・支払業務の流れ — 医療情報基盤・診療報酬審査支払機構(参照 2026-10-24)
- 審査の差異の可視化レポート — 医療情報基盤・診療報酬審査支払機構(参照 2026-10-24)
- 再審査請求方法について — 北海道国民健康保険団体連合会(参照 2026-10-24)
- 医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第7.0版 — 厚生労働省(参照 2026-10-24)